守るべき家がある


ふと窓の方に目をやるとカーテンの隙間からうっすらと光が差し込んでいる。どうやら夜が明けたようだ。今日の仕事はここまでにしよう。そう決めるとPCの電源を落として椅子にもたれかかり、大きくため息をついた。疲れのせいか柄にもなく昔のことを思い出してしまう。
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もう20年になるのか……。そんな感じはしなかった。兄と2人でこの警備会社を立ち上げたのはついこの前のことのように思える。そういえば数年前兄が退職し自分が代表戸締役となってからは1度も兄に会っていない。兄に会いに行ってみよう。ふとそんな気になった。
兄は数年前の退職を機に隣町に引っ越していた。どうやら住み込みで働いているようで名前も変わったらしい。地図を頼りに兄の職場に行ってみると係の人に奥の部屋に通された。兄を呼んでくれるそうだ。5分ほどすると兄が現れた。
「久しぶりだな」
「ああそうだな。あれ以来だもんな」
「……」
「……」
「なんて言うか…いざ会ってみると何話していいかわかんねーな」
「何のために来たんだよ」
「そうだな」
「……」
「そういえばひとつ聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」
「なんでわざわざ社長を辞めてまで転職したんだ?」
「……親父も言ってただろ。男にはやらなければいけない時があるって」
「それがあの時だってか?」
「そうさ、あの時気付いたのさ。今やらなければ一生できないって」
「そうか……」
「……」
兄との久しぶりの会話はなかなか弾まなかった。やはり数年の隔りは大きいのだろうか。兄との間にはガラスのような見えない壁があった。
約束の時間が過ぎると兄は部屋の奥の扉へと消えていった。たいした話はできなかったが、兄も元気でやっているのだろう。そう思うと心が少し軽くなった。
外に出ると空が赤く色付いていた。
「もう夕方か…」
そう呟いた。秋の空気はひんやりとして気持ちがいい。目を閉じ大きく息を吸った。遠くからかすかに時報が聞こえてくる。小学生は家路についただろうか。そんなたわいもないことがふと気になった。
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「うるさいな……」
5時の時報で目が覚めた。どうやら椅子に座ったまま寝てしまったようだ。おもむろにパソコンの電源をつけると目がさめてきた。
「仕事を始めるか…」
そうひとりごちると2ちゃんねるを開いてスレをたてた。
  「夢の中で刑務所にいる兄貴に面会してきたwww」
今日も俺は家を守る

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